サクラのエリコ
それから数時間。

エリコは一心不乱にメールのやりとりを続けた。

見た目のチャラさからは想像もつかない程の集中力に、周りの誰もが声をかけるのを躊躇った。


キャバに入りたての頃、開店前に送りまくった営業メールを思い出す。


彼女のメールの内容には「騙してやろう」「引っ掛けてやろう」という邪悪な感情は微塵も感じられない。
実際彼女がそういう気持ちをこめていたかどうかはわからないが、感じさせないのは彼女の技術のなせる技なのではないだろうか?

読んだ者には「返事が欲しい」というしおらしい感情が伝わる。

この営業メールに何人の客が何度足を運んだだろうか。



午後6時。


早番のバイトと遅番のバイトが入れ替わる時間である。
昼のバイトが作ったキャラや、メールのやりとりをしている客などを夜勤のものが引き継ぐ。
引き継ぐ者は履歴をしっかりと読み、語調や話の展開を忠実に続けなければいけない。
男性会員からすれば、ずっと同じ女性とやり取りしていたつもりが、実は複数のサクラとやり取りしていた事など普通にある事なのだ。
そうでもしなければ、夜になればまったく女性から返事がない、なんて怪しすぎるからだ。それだけサクラはリアリティを大事にする。
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