サクラのエリコ
店内はシーンと静まり返った。
19時前とはいえ、有名店なだけにそこそこ客は入っている。


「ちょっとお前奥の事務所までこい、ここじゃ迷惑だ」


「うっせえよ!そんな暇ねえんだよ!結花ってやつの行きそうな所教えろよ!」


「いーから来い!じゃなけりゃ警察呼ぶぞ!」


マネージャーはそう言いながら周りの客にすいません、すいません、と頭を下げる。


「呼びたきゃ呼べよ!エリコになんかあったらただじゃすまさねえからな!!」


もはや女の怒鳴り方ではない。


「おい、警察呼べ!」


マネージャーはカスミの勢いに負け、代わりにウエイターに怒鳴った。




「まちな」


店の奥、VIP用の席からドスの効いた声が響く。
見ると、明らかにそっち系の集団が座っている。
声の主はその中心に座っていた男だった。


「鮫島さん...、なんでもないんっす、なんでもないっすから」


マネージャーは急に怯えたようにその場を取り繕うとした。


「なんでもないならなんでその娘は騒いでるんだね?」


「いや・・・」


鮫島という男に睨まれ、マネージャーは完全に尻込みした。


年の頃は50歳くらいだろうか、その辺のチンピラとは格が違う雰囲気。
妙に静かな物腰が逆に不気味だった。
本物のヤクザ、と言う形容詞がそのまま当てはまる男だ。
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