サクラのエリコ
24時間営業のスーパーで軽く食材を買い込み、二人は大久保にあるカスミのマンションへ向かった。


ハングル文字や、やたらと漢字の多い看板の溢れた繁華街を抜け、ホテル街のさらに奥にカスミのマンションはある。


夜中にあまり一人歩きしたくない場所だが、カスミはなんとも思っていないようだ。
それもそのはず、カスミはモデルのような華奢な体からは想像もできないほどケンカが強い。
夜道で暴漢に襲われたところで返り討ちにするだろう。





エリコは彼女と初めて出会った時、それを目の当たりにしている。


暴力的な元カレとの別れ話のもつれから、路上でそいつに殴られていた時にカスミは現れた。


自分より遥かに体格のいい男を、ものの数秒で失神させたのである。


その日地方から出てきたばかりで行き所のなかった彼女を、エリコは即自分のマンションに招きいれた。
その晩二人で飲み明かし、がっつり意気投合したのは言うまでもない。

エリコはその時から彼女に恩を感じているし、
カスミもそのまま約半年居候させてもらった恩を忘れていない。


居候している間、エリコが男を一切部屋に入れなかった事もカスミは知っている。
(それを知っていたから半年で自分でマンションを借りたのだが)




カスミのマンションにつくと、数分で部屋いっぱいにいい香りが広がり始める。


カスミの料理の手際のよさは絶対に真似ができないとエリコは思う。


「いただきま!」


す、を言う前に箸を伸ばすエリコ。うまいうまいと料理をどんどん口に運ぶ。
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