生と死
父親の自営業が、破産する日が来た。



朱美が、小学校5、6年生の頃だ。



今でも、覚えている。


知らないスーツを来た男の人が、家を何度も出入りしていたから。



それが怖くて、少しでも明るくしたいと子供ながらに思った。


子供部屋にオルガンがあった。

朱美はピアノを習いに行っていた。

あまり、ピアノのレッスンの気は進まなかったが、この時ばかりは鍵盤に指を置いた。


オルガンを弾く事で、少しでも子供の健気な気持ちを伝えたかった。

あたしたちは、無邪気なんだよ…って。




だけど、すぐお母さんが階段を昇って部屋を開けてこう言った。



「止めなさい、静かにしなさい」と。


ああ、本当に深刻なんだ。

子供心ながらに不安に陥ったのを覚えている。
< 14 / 58 >

この作品をシェア

pagetop