生と死
朱美は、遺された母親を思った。


彼女自身は、殺されたわけでも無い。

命はある。



しかし、彼女も何故こんな人生を強いられる羽目になったのか。



殴られたり、殺されたり。
そういう酷い目にあったわけではなく、愛した旦那も、可愛い娘も、あの人の大切な人々は居なくなっていった。



きっと、あの母親だって、まさか自分が大人になり、愛する人と結婚し、娘が出来、その途端旦那が病死し、更に33年の時を経て、娘までも死ぬ。


気が付けば、一人。


母親は、60歳近い年頃のようだ。


何故、そんな人生半分以上経って尚、惨い仕打ちを受けねばならないのか。



朱美は、

死んだ娘の人生も、
夫も娘も奪われた母親の人生も、


どちらの可能性も、どの人間にも与えられ、訪れるわけで。


朱美は、非常に不快な気持ちに陥った。


この時ばかりは、トーイの存在も消え失せる。


無気力な空間に、ただ浮遊するしかなかった。
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