待っていたの
「ここの後宮は、舞もたいしたことないのかい?」

「見ようと思わないので知りません」

パンパン

と二回手を鳴らす、栄達のかわいた肌と肌が触れる音。


「朱雀王に、舞の歓迎を……」

数人が集まり、音が奏でられる。


それに合わせて青の濃淡の布が舞う。


「…………。」

正直、黒麗から言われた舞は下手というのは、あながち嘘ではないようだ。


素人だけれど、上手い人は分かる。


「彩…君の舞が見たい」

手を組み頭を下げる、下で舞う女性からざわめきが起こる。


黒麗さまは、立ち上がり飾ってあった花を一輪取り出し、手首を翻し投げる。


「陛下…許可を」

「許す」

栄達も陛下も怪訝な顔で、私を見たが特に何も言わない。


青のドレスの裾を翻し、階を下る。


「黒麗さま、裾も袖も長いものに変えて下さい」

―…パチン

「これでいいかい…?」

赤の綺麗な、動くと広がる舞うのに都合のいい感じの洋服だ。


「Lady's and gentleman it's show time.」

どこの言葉か分からないであろう、異世界の言葉。
日本語は翻訳されるが、他は翻訳されない。
異世界の娘はみんな日本人なのと関係があるのか。



昔の記憶を呼び起こしながら、音に身を任せる。


「おおー…」

地響きみたいな音が足の下から聞こえてくる。


衣を翻し、舞う。

彩が引っ張り、翻弄する。

赤の布が太陽の様に舞う、青の布が空の様にはためく、美しいコントラスト。


「流石、彩。美しい…」

うっとりと黒麗が呟くのを白夜は、無表情で見る。


クルクルと舞ながら、手足を伸ばし、飛ぶ。


引っ張り、翻弄させ、表情が変わる。
光が射す、暖かくなる―そして風が舞う。


顔も変わったように、艶やかな、顔…あの夜よりも美しい顔だ。


彩が輝く瞬間、この場にいる全員が見直す瞬間。



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