七狐幻想奇譚
道中家族連れや恋人とすれ違う。とても楽しそうに雑談しながら、色鮮やかな浴衣を着て、出店で買ったりんごあめやたこ焼き、水風船を持って。


なるべく見ないようにしているが、どうしたって視界に入る。桃花にとって楽しい思い出など一切なく、夏祭りなんて自分には遠いものだと思っていた。



民家と田園を通り抜け、幻想の森に足を踏み入れれば、夏の虫の鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。



立ち並ぶ樹木の間を一歩一歩進む。



幻想の森は別名“神隠しの森”と呼ばれ、狐の声を聞いたり姿を見てしまった者を、狐が何処かへ連れ去ってしまうという。



狐を敬い、狐を信仰するのに、なぜかそういった負の謂われが多く残っている。



毎年行なわれる夏祭りだって、狐を喚ぶためのお祭りなのに。



「…………どうして?」



ぴたっと足が止まる。






どうしてだろう、足が固定されてしまったかのように動かない―――。






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