ブルービースト
あれか。あれに騙されたのか!
ピンと来たユノはバッと身を起こすとペチペチ頬を叩く。
それからうしっ、と気合いを入れ深呼吸した。
「あれは幻あれは幻あれは幻…、あれはただのサボり魔あれはただのサボり魔あれはただのサボり魔…」
そう、ただの、上司。
私はその、部下。
それだけ。
それ以外に何もないから!
「とにかく普通に接しないと」
三日後には特殊部隊の派遣が始まる。
どれくらいの期間の遠征かはわからないが、きっとほぼ彼と一緒にいることになるだろう。
「今まで通りに、今まで通りに…」
もはやユノの頭の中に副隊長はいなかった。
暗唱しまくった彼女はこれで大丈夫、と囁くと準備をする為そそくさと着替える。
それから足りない物を確認し、買い出しに出かけた。
そんな彼女を窓から見下ろす影が一つ。
「……まさか、ね」
「くぅん?」
呟いた人影は、ふっと笑うと腕の中の飼い犬を撫でる。
不思議そうにする愛犬をぎゅううと抱き締めてから、彼は窓から遠ざかり姿を消した。