ブルービースト
そう答えたアサギは、少し遠い目をして微笑んだ。
その滅多にない表情に聞いてはいけなかったかと焦ったクライドは、そうですかとだけ返すと黙り込む。
「まぁ今は昔の話よりこれからの話だな。帰ったらキィルに報告しねぇと」
気まずそうな部下に気をきかせたのか、大将は話題を変え明るく言い放つとクツクツ笑った。
正直ホッとしたクライドは、何やら可笑しそうな隣のおっさんにきょとんとする。
「久々に本気で怒るアイツが見れそうだ」
「へ?何でですか?勝ったのに!」
「その勝ち方が問題なんだよ」
そう彼は楽しそうに言うが、一体何が悪かったというのか。
訳がわからないクライドの横で、話は終わりだと笑うとアサギはテントに向け歩き出した。
周りを見てみると、もう大分撤退の準備が済ませてある。
自分たちがお喋りしている間に、比較的軽傷な軍人たちはテキパキと忙しなく働いていたらしい。
「おいブロード!てめえも手伝いやがれ!」
「あだぁ!何で!?何で殴るの!?」
聞こえた上官二人の声にそちらを向けば、呆れたように笑う彼女が目に映った。
自分にはあんな風にすら、笑ってくれないのに。
「でも、諦めませんから」
決意新たに、クライドは意気揚々と彼女のもとへ向かった。
その数秒後、勇敢にも華奢な体に抱き着いた彼は悲鳴をあげることになったが。
かくして、長いようで短かったルビアニス軍の遠征は、勝利で幕を閉じたのだった。