ブルービースト
-Ⅰ-
「こっちだよ」
質素な廊下を歩く二人の男女。
茶髪の男が黒髪の女を案内し、声をかけていた。
ついて行くだけなのだし、正直言われなくてもわかっているというのが女の本音だが、女はそこは何も言わない。
…面倒だから。
女は今日、軍隊で昇格した。
前は戦闘班第三部隊の隊員だったのだが、人事異動とか何とかで第三から第一に異動。
しかも戦武中将という結構偉い役職の人の補佐に任命されたのだ。
…特に昇格するようなことした覚えはないんだけど、
まぁ、上がったんだからいいのかな。
そんな考えの女はかなり冷めた性格らしい。
「はい、着きましたぁ~。中入ってもビックリしないでね??」
無駄にテンションが高い茶髪男が、何が面白いのか橙色の目を細めてクスクス笑いながら女に言った。
ちなみに今着いたらしいのは、女が補佐をする中将の執務室。
「ご案内ありがとうございました」
女が特に感謝もしていないが機械的に言ってやると、男は「いいえ~」と間延びした声を返してくる。
…チャラいな、こいつ。
冷めた女はまた冷めたことを思ったとか。