ブルービースト
放たれたその台詞に、ミノリは目を見張った。
キィルはそれ以上は何も言わず、礼を一つするとスタスタと扉に歩いていく。
が、
「き、キィル!」
「…………………。」
慌てて呼ばれた名に、一度だけ立ち止まった。
顔だけ振り返り、目で先を促す。
「…あの、リシアっていう子かしら?」
訊ねる彼女に、他意はないように思われた。
真っ直ぐに見てくる元上司に、キィルは小さく微笑む。
「いいえ。明日見てみればわかります」
あと、クリスの部屋なら客室じゃなくとも宿泊許可します、とだけ言い残し、最後に挨拶をするとブロードを背負ったキィルは扉の向こうに消えた。
呆然とそれを見送ったミノリは、一人呟く。
「…キィルが…笑った?」
しかもその後に背中の息子に向けた、目。
「……本気、でしたのね」
彼がブロードを養子にすると言い出したときは、疑ってしまったけれど。
あんな、見たこともない程柔らかい顔を見てしまえば、そんなもの消えてしまった。
「救われたのは…キィルの方なのね」