ブルービースト
フロアリビングから出たキィルは、ふと足を止めた。
ずり落ちかけたブロードを背負い直し、溜め息をつく。
「盗み聞きとは感心しないな」
扉の後ろにいる人影が、ビクリと揺れた。
出てきた二人を見やることなく、キィルはまた一瞬だけ立ち止まる。
「す、すみません…。そんなつもりは…」
「いい。ブロードを運ぼうと戻って来たのだろう?」
後は私に任せなさい、それだけ言うと目もくれず元帥は再び歩みを進めた。
その背中を見送り、シエラは立ち尽くす。
「………リシアさん」
「…………………。」
先程から俯くだけの彼女は、やはり返事を返さなかった。
聞こえてしまった元帥とミノリの会話が、ぐるぐると頭の中を回る。
――…“あの、リシアっていう子かしら?”
――…“いいえ”
「…あたし、もう寝るわ」
覇気のない声で小さく呟き、リシアは部屋に戻って行った。
シエラは彼女が部屋に入ったのを確認すると、自分もと歩き出す。
(ブロードさんが、誰かを好き?)
そんな素振りは、出会ってから今まで全くと言っていい程なかった。
自分が、鈍いだけなのだろうか。
明日お兄ちゃんに聞いてみよう、そう心に決め布団に潜り込んだシエラは、リシアのあの様子に心を痛めながら静かに目を閉じた。