ブルービースト
-Ⅲ-
背中を気にしながら、片手でゆっくりと扉を開く。
パタン、という小さな音に、ベッドの上に居座るそれの耳がピクリと揺れた。
「…ここにいたのか」
恐らくあの酒臭さが耐えられなかったのだろう、部屋に避難していたらしいポチにキィルは言った。
ポチは彼が入ってきたことに驚いたらしく、飛び上がると少し威嚇する。
相変わらずなそれに苦笑しつつ、キィルはブロードをそっとベッドに横たえた。
「安心しろ、酔っ払って眠っているだけだ」
途端に心配そうにスンスン鼻を寄せる犬に、キィルは極めて優しく言ってやった。
するとポチは元帥を見上げ、彼の手にも鼻をくっつける。
「何だ。礼でも言っているのか?」
「わん」
クスクス静かに笑うキィルに、ポチも小さく鳴き声をあげた。
すやすやと眠るブロードの傍で丸まり、そのままキィルを見つめる。
「お前は、ブロードが私を怖がるから威嚇するのか?」
「わん」
「はいかいいえで答えろ」
…それは、無理だ。
布団をかける飼い主の義父の言葉に、ポチは僅かに苦い顔をした。