ブルービースト
「やはり、まだ慣れないのだろうな」
もう大分経ったのにな、と囁いてベッドの傍らに腰を下ろしたキィル。
ポチは暫し考えた後、ブロードの傍から彼の膝の上に居場所を変えた。
それに驚いたキィルは、苦笑いしてふわふわする頭を撫でる。
「私を慰めてくれるのか?」
「……きゅん」
「お前は本当に賢い犬だな」
どこぞの馬鹿息子とは大違いだ、と言ったところでその馬鹿息子が寝返りを打った。
こちらに背を向けたその蒼い頭も、ついでに撫でてやる。
「…ポチ。お前は覚えているか?」
「?」
「クリスが来たときのことだ」
きょとんとする犬に言えば、暫くしてわんと一言鳴いた。
きっとこれは肯定なのだろうな、と受け取りキィルは微笑む。
「私はあの時はじめて見たが…やはりブロードはただ者ではないな」
「きゅん」
「どんな人間でも心を開かせてしまう」
堅い殻に閉じこもっていた少年を引っ張り出して、その殻を叩き割って、手を差しのべたのは紛れもなく自分の息子。
義理とは言え、父親としてとても誇らしかったのを今でも覚えている。