ブルービースト
* * *
「カイトウ、カイトウ。カイトウ~♪」
変な調子の歌を無駄な美声で歌いながら、自分より遥か後ろを歩く蒼。
隣に居合わせる茶髪の彼は、確かレイツと言ったか。
キィルはそんな息子と部下を背後に感じながら、そっと溜め息をついた。
聞こえないとでも思っているのか、あの馬鹿息子は。
「おいブロード、あんま悪ノリすんなよなぁ」
「悪ノリ?滅相もない!」
「…元帥様が、前にいるんだぞ」
「……き、きっと聞こえてないよ」
残念ながらバッチリである。
最前を歩くキィルと最後尾のブロードに挟まれた軍人達は、ヒヤヒヤしながらそのやり取りを聞いていた。
いくらか大人しくなった第一部隊隊長は、口を尖らせたかと思えば今度は廊下をあっちへこっちへフラフラする。
恐らく屋敷の主所有の絵画が珍しいのだろうが、…何ともフリーダムな野郎だ。
「おいブロード」
「はー…、ふぁい!?」
「お前は前を歩いていろ」
ああほらみろ言わんこっちゃねぇ、そんな顔のレイツも一緒にキィルは息子を無理矢理最前列に引っ張り出した。
そうでもしないと、何をしでかすかわからない。
ここの屋敷の物は例え親指ほど小さな小瓶でも、相当の値段がするのだ。
この馬鹿息子のせいで軍が破綻、そんなことは絶対に避けたかった。