1億の☆
2コイン
「音水様、いかがなさいましたか?」
背後から声を掛けられ振り返ると、
アイロンのしっかりとかかった黒い燕尾服を着込み、
白髪交じりの髪をオールバックにした風変わりな老人が目に入る。
この老人は藤堂家執事の西條さん。
私をここまで連れてきた人。
そう、ここは藤堂財閥のお邸入り口。
藤堂の奥様の言いつけで、早くこちらに馴れるように、
私は今日からここに住まなくてはいけないらしい。
つい先日結婚の話をされたばかりなのに、次の日には同居だなんて…。
不安で不安で堪らない。
指先は震え、今にも涙が溢れ出そうだった。
それでも逃げ出さなかったのは、
先日のやりとりで私に帰る場所はないと悟ってしまったから。