奪ったのは君か僕か

百合野

トントン、なれない手つきで野菜を
切っていく。


実は料理なんて結婚するまでしたこと
なかったのよ、私。


ほら、奥見屋のお嬢様だったから。
昔はね。


今は栄蔵さんの奥さんになって
毎日料理、洗濯、お掃除をこなしてる。


だって、少しでも栄蔵さんに


愛してほしくて…


「栄蔵さん。夕飯の支度ができました。」


「ありがとう。」


栄蔵さんは私の作った料理を決して
残したりしない。

おいしいよ、ありがとう。
そういつも言ってくれるの。


お世辞でも美味しいと言えない料理を
嫌な顔せずに食べてくれて…


本当、優しい人。
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