ラスト プリンス
あんたは何もかも分かりにくすぎるのっ
◇◇◇
ふわふわとした感覚の中、ほっぺが上に引っ張られた。
しかも、痛い。
ほっぺを吊り上げる物体を、軽く叩いてみたものの、離してくれる気がないのか、さらに力を強める。
「………いひゃい」
痛みに顔を歪ませ、目を開けると、そこには見慣れたテーブルにソファー。
「早く起きろ」
上から冷たい声が聞こえて、顔を上げれば、あたしのほっぺを摘んだままの耕太の姿。
ぺしんっと軽い音を響かせながら、耕太の手を叩きキッと下から睨み上げる。
「痛いじゃない」
「起きないお前が悪い」
当たり前だ、と言わんばかりのその口調は、寝起きだとしても頭にきた。
起こし方っていうのがあるでしょ、と言うつもりで口を開いたのに、あたしはすぐ唇を噛み締め頭を下げた。
だって、そんなことあたし、言えないじゃない。
もちろん、今までだって数えきれないほど泣いてきたけど、男の前であんなにないたのは初めてよ。
言い返すことも、耕太を睨み上げることも出来ないあたしは、静かに起き上がった。