ラスト プリンス


「腹減っただろ」

 前のソファーに座った耕太は、感情の汲み取れないその瞳であたしを見ていた。

 あたしは、目を合わせているのが耐えられずに、視線を泳がす。

「……お腹減ってない」

 からからになった口をやっと動かして、泣いた所為で重くなった頭を支えられず、ぱたんと再びソファーに沈んだ。

「おい。また寝るな」

「……だるいんだもん」

「はあ……とりあえず帰る支度しろ。家まで送ってやる」

 …………え。

「いい。 歩いて帰れる」

 体がだるいとか、もうどうでもよくなったあたしは、起き上がりテーブルに置いてある携帯に手を伸ばせば。

 携帯を掴んだあたしの手を包み込むように掴む耕太の大きな手。

「は? 何時だと思ってんの?」

「大丈夫だから」

 手を引こうとしても、耕太の力が強すぎて抜け出せない。

 視線だけを上げて耕太を見れば、相変わらず何を考えているか分からないのに。

 その瞳から目が逸らせなくなってしまった。


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