ラスト プリンス


「離して」

「お前携帯の電源切ってんの?」

 あたしの言葉なんて無視して、話の逸れたことを聞いてくる耕太は、言葉と裏腹に真剣な顔をしていた。

「切って、ない……」

 その表情に押されつつあるあたしは、呟く程度の声しか出ない。

 なんでそんなこと聞くのよ、と口を開こうとするけど、墓穴を掘りそうで、必死に頭の中で言葉を選ぶ。

「だから、なに。 いいから手、離して」

「こんな時間だ。親が心配する」

「ヘーキよ。だから、離して」

 家まで送ってもらったら(自分で言うのもあれなんだけど)あのでかい屋敷の説明しなくちゃいけなくなるじゃない。

 そうなると、必然的に華道家だってバレる。

 別にバレたってどうってことないかもしれないけど、あたしの見た目とかけ離れすぎて、色々とめんどくさい。

 それに、もし帰る時間が遅くなったからって耕太が挨拶に行かれても困る。

 あの母親のことだ。 バイトでのあたしの様子や、もしかしたらお見合いのことも言ってしまうかもしれない。


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