ラスト プリンス
トクン、トクン、トクン……。
嫌でもカラダに響く鼓動は、もしかしたら逆流するんじゃないかって心配になるくらい、早い。
……ああ、どうしよう。
これじゃ、恋する乙女みたいじゃないっ。
ダメよ。 ダメ、ダメ。
確かに、好きになりかけてるのは事実だけど、あたしには将来確実に愛さなければならない人がいるのよ?
きっと、今好きになっちゃったら絶対引きずっちゃうと思うの。
だから、ね?
引き返せなくなる前に、踏み止まらなくちゃダメなんだって!
耕太を喜ばせるんじゃなくて、お母さんを喜ばせなくちゃいけないんだからっ。
これはただの暇潰し。
1月25日になるまでの、軽い暇潰し程度の恋愛の賭けなんだから。
しっかりしなさいっ。 梨海!
霧がかかりもやもやとした気持ちを必死に、必死に閉じ込めて見ないフリ、気付かないフリ。
いいの。いいのよ、これで。
きゅっと口元を引き締め、深呼吸を繰り返し気分を上げる。
「遅くなりましたーっ」
いつものあたしで、社長室のドアを開けた。