ラスト プリンス


「なんだよ」

 聞き慣れたフレーズを聞くこともなく、開口一番そう言い捨てた耕太に、電話の相手の声が響く。

『ひ、ひどいっ』

 隣にいるあたしにさえ聞こえてくるその声は女性のもの。

「るせぇな。耳元でバカデカイ声出すんじゃねぇよ。 ってか、何。 俺だって暇じゃないんだけど」

『ウソつけーっ!! 暇人のくせにウソつくなーっ!!』

 酔っている、と思ってもいいほどハイテンションなこの女性の声に、ぎゅんっと心臓が掴まれた感覚がした。

 もしかして、この女(ひと)って……。

「黙れ、ユキ! 鼓膜が破れるだろ」

 耕太も敬語じゃないし。って考えると、やっぱり……としか出てこない。

 考えつくのはただひとつ。

「……あー? へぇ、そうか。良かったな。 ……分かった分かった。地中海の話は後で聞いてやるから。 な?」

 …………耕太の彼女?

 ガツン、と。
 鈍器で頭を殴られたみたいに、胸が心がひどく鈍い痛みを発している。

 耕太が『ユキ』と呼んだその女性。

 ユキっていう人が、耕太の彼女じゃない可能性はあるよ? あるんだけどっ……。


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