ラスト プリンス


 例え、ユキさんが彼女じゃなかったとしても、もし、彼女いるなら、即刻あたしとの賭けは中止にした方が良いと思うの。

 だから………。

「ねぇ。ユキさんって彼女?」

 勇気を振り絞って、震える声で運転席に言葉を投げた。

「……は?」

「いや、あのね? ユキさんじゃなくても、彼女がいるなら、賭け、止めた方がいいのかなって」

「負けそうだからか?」

「そうじゃなくてっ。 例え、あたしが耕太の彼女の存在を知らなかったにせよ、自分の彼氏がそんな賭けやってるなんて、嫌だと思うの。 だから――」

「安心しろ。 俺には女なんていねぇから」

 必死になって弁解しようとするあたしを遮ったのは、耕太の抑揚のない言葉。

「……そう?なら、いいけど……」

 不覚にも、安心してしまった。

 いかにも、心がほっとして、はち切れる寸前だった心が通常を取り戻していく。

 ……もう、やだあ……。

 耕太がはっきりと言ってくれたおかげで、あたしは、嬉しくて嬉しくて。

 必死にいつもの顔をキープするのが大変。

 これで、後ろめたさがなくなった、と安心している中、ふと、ひとつ気になった。

「じゃあ、ユキさんって……?」

「これからどうせ会うんだから、お楽しみ」

「えっ、何それ!?」

 ガッと前の席に身を乗り出したあたしに、くつくつと喉の奥で笑う耕太。


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