ラスト プリンス
「梨海ちゃん気にしなくていいのよ? カイにだっていつでも会えるんだから」
「そうそう。私、もっと梨海ちゃんとお話したいのに」
ほら、座って、と促す二人に、あたしは静かにゆっくりと首を横に振った。
気になさらないでください、とあたしは言葉を続ける。
「あとひとつ、仕事が残ってるんです。アルバイトだからって、甘えて良いわけじゃないですし。 それに。ユキさん、せっかくのお誕生日なんですから。 親孝行してもらえるチャンスですよ」
にっこり、とまではいかないが、適度に微笑むあたしに「そうかも」とユキさんが笑顔を咲かせた。
「本人前にして失礼なんだけど、梨海ちゃんって見た目によらずしっかりしてるのね」
コーヒーカップを口に近付けながら、そう言った香保里さんに、一瞬心臓が止まったかと思った。
しまった。と思っても遅くて、なんとか自分自身をフォローする言葉を探す。でも、そんなの見つかるはずなくて。
「ご両親の教育が良かったのね」
とまで言われる始末。
もう、どうしようも出来なくて、曖昧に微笑み目を泳がさないようにするのに必死だった。
ありがとうございます、と軽く頭を下げてから、失礼します、と席を外したあたしは、急いで外に飛び出した。