ラスト プリンス


 びっくりしたとか、そんなんじゃない。

 ドクドクと全身の血が嫌な感じに流れて、逆流するんじゃないかってほどだった。

 ホントに無意識だったの。カイさんや耕太のお母さん方だったから、粗相のないようにしなきゃって。 席を外すときに気分を害すような発言に気を付けなきゃって……。

 だから……嫌いなのよ。こんな自分。

 少しでも気を張ると重ねすぎた色が剥がれちゃうんだもの。

 今まで隠し通せてきたとは思ってたけど、こんなところでボロが出るなんて考えもしなかったわ。

 耕太とカイさんが、この後の会話ですっきり綺麗に忘れてることを願うしかないわね。

 カラカラに乾いた空気に、はあっと白い息が溶けていく。

 それがなんとも、耕太に溶け込むあたしに見えてしまって、ぎっと胸に苦味が広がった。

 もう、自分を騙すのには限界かしら。

「いらっしゃい」

 カランコロンと耳に気持ち良い音ともに、喫茶店のマスターの声が重なった。


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