ラスト プリンス
「ねぇ、あなた。花瓶なかった?」
花束の包装を丁寧に剥がしながら、マスターに問い掛ける昌子さんは、蕾を軽く撫でる。
マスターから受け取った花瓶に花を生けていく昌子さんの横顔は優しい。
「花。好きなんですか?」
あたしの問い掛けに、昌子さんは「ええ。そうなの」とにっこりと笑う。
「綺麗で良い匂いだし。 でも、それだけじゃなくてね。 花とか木とか草とか。全部、重力に逆らって真っ直ぐ上に向かって、太陽に向かって生きていく。 なんだか、かっこいいと思わない? 自分に似合った花びらや葉っぱを広げるって」
ずんっと胸に落ちた気がした。
直に心に染みて、すぅーっと心全体に同じ色が広がる。
「花だってなんだって植物は素直だから綺麗なの。 一回でも水をあげなかったら、ちょっと日光に当たらなかったら、元気なくなっちゃうでしょ? 一定のバランスがあるから、いつもの状態でいられるんだし。それに………えっ?どうしたのっ」
目を見開いてあたしを見る昌子さんに驚いて、我に返れば頬が濡れていた。
急いでそれを拭うけど、全然止まらなくて。
「ご、め、なさいっ……」
いいのよ、と昌子さんはあたしを優しく包み込んだ。