ラスト プリンス


 真っ直ぐに生きてきたことに嫌気がさしたのは、たぶん、小4の頃。

 名前なんて忘れたけど、なんとなく仲の良かった友達に、『梨海ちゃんって真面目だよね』と言われたのがきっかけだと思う。

 化粧をしていなくても派手な顔立ちのあたしの性格は、確かに地味だったかもしれない。

 だって、しょうがないじゃない。
 それが、“わたし”なんだから。

 毎日毎日。歳上の人に対して言葉遣いを気を付けなさい、と言われてきたんだから、自然と大人の機嫌を伺うようになるわよ。

 だからって、別にそれが苦だったとかはなかったの。

 むしろ、敬語を使えば使うほど誉められてたんだから。

 あたしにとって、その時が一番、飾らなくて、でも少し本音を隠して、らしくいられたのかなって、今では思うけど。

 その友達の一言で、あたしはそれまでの自分をひた隠してきた。
 自分らしくいるのは恥ずかしいことなんだと。

 もし、あたしが花ならば。
 一定のバランスを保てなかったあたしは、カラカラに乾いているのかも。

「ふふっ……ホントにおかしい」

 やっと泣き止んだあたしの背中をさする昌子さんは、くすくす笑い始めた。

「ありがとうございます。 なんかすっきりしました」

「ゆっくりでいいから、梨海ちゃんも“綺麗な花”になってね」

 苦しいのはこれからだって分かってるけど、もう、自分に嘘はつけない。

 歯切れ良く返事をしたあたしは、紙袋を抱き喫茶店を出た。



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