ラスト プリンス


『それじゃあ、梨海に見えないだろ?』

「別に。 会って謝られたほうが嫌」

 お願いだから、と。
 まるで、どこぞの夫婦の痴話喧嘩のように、お互い引き下がらない。

「あたしにメリットなんてないじゃない。 仮に会ったとしても、何もしないなんて言い切れるわけ?」

『約束する。 絶対』

「ウソよ。そんなの。 信じられるわけないじゃない」

 あたしが信じるとでも思ってるの?、をふんだんに溶かした声音で告げる。

 どうしても会いたい、なんて付き合ってた時に言わなくて、なんで今言うのよ。

 こいつは絶対諦めない、もしかしたら教室にやってくるかもしれない、と悟ったあたしは。

「………いいわよ。5分だけなら」

 結局折れたのはあたしだった。

 時間と場所を指定し、一方的に電話を切って、机に突っ伏す。

 謝られるだけなんでしょ?なら……、なんて考えたあたしが浅はかだったかは分からないけど。

 自分の意思の弱さが頭にくる。

 なんで断れないの?と、自問自答を繰り返してみるけど、答えは見つからない。

 繰り返す度に、自己嫌悪に陥って、そこから出てこれないことにも、苛立って仕方なくて。


< 172 / 269 >

この作品をシェア

pagetop