ラスト プリンス


 眉を寄せたあたしは、躊躇いもせずに、勢い良く真司の頬目がけて平手を飛ばした。

 パァン、と。 気持ち良いくらいの音と「……いっ」と、真司が顔を歪める。

「ウソつきっ!! 何もしないって言ったじゃないっ」

 唯一、信じてあげた部分だったのに。

 真司の頬を叩いた手のひらをぎゅっと握って、睨み上げる。

「……俺と付き合う前のこと、覚えてる?」

 そんなわけないじゃないっ、と今までで最高に怒るあたしは、早くバスが来ることを願った。

「付き合う前、こうやってキスしようとした時。梨海は目を閉じた」

「そんなの、今と全然状況が違うわ! あたしの気持ちとか条件とか!」

「まあ、そうだけど。 でも、梨海は、俺じゃない誰かがキスしようとしても、絶対しない」

 あたしの何が分かるっていうのよっ!と、叫びたくなる気持ちを、わずかに残った理性で押さえた。

「あたしのこと軽い女って言ってたくせに! 二股かけてたのは、そっちじゃないっ」

「だから、それは口から出任せで――」

「そんなの信じるわけないでしょっ?! あんなにズタズタに言われて! ホントは、もしかしたらごくごく普通に『ごめん、悪かった』って言ってほしかったの! 待ってたのにっ」

 一息にそう言えば、何の前触れもなくふわりと微笑んだ。


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