ラスト プリンス


「梨海が振ったのに、未練たらたら?」

「はっ?! そんなわけないじゃないっ」

 ジリジリと近づいてくる真司に、頭の中で警報が鳴り響く。

 それに合わせて、あたしも上がらない脚をズッズッと引き下げるしかなくて。

 ふわり、と微笑んでいるのが怖い。 付き合ってた時なら、あたしも微笑み返したかもしれないけど、そんなんじゃない。

 摺り足で下がっていたのが悪かったんだと思う。
 カクンと足首を捻り、体勢が崩れた。

「っ……おっと」

 離してもらえなかった手首が、体と反対方向に引っ張られ、ふわっと男くさい匂い。

「梨海が好きなのは俺なんでしょ?」

 ふざけないで、をふんだんに詰め込んで真司の胸を力一杯押した。

「あんたなわけないでしょっ!! あたしが好きなのはこうっ――」

 最後の一文字が言えず、口の形が『う』のまま、閉じるしかない。


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