ラスト プリンス


 予定から3分遅れで近づいてきたバスは、相変わらず見慣れた色をしていた。

「じゃあ、名誉挽回にひとつ」

 ちょうどバスがあたしの目の前に止まって、開いたドアからステップに足をかけた時。

「俺、双子なんだよ」

「………は?」

「だから、トイレで聞いたのは弟の方。 あれ、俺が言ったんじゃないんだ。 それから、浮気もしてない。ウソが上手いだろ?」

「……なんでっ」

「俺が吹っ切れるために、あんなヒドイことを言ったんだ。 だから、許して?」

 出ますよー、と前方の方から声が聞こえてくる。

 それに応えていないのに、勝手にドアを閉めた運転手を恨むと思うの、あたし。

 だって、まだ真司に『許す』って言ってない……っ。

 ゆっくりと加速するバスの、一番後ろの席に飛び乗り、真司を見れば、穏やかな表情で手を振っていた。

 何で……何で、あたし気付かなかったんだろう。

 声までそっくりな双子だとしても、好きな人だもの、絶対気付くに決まってる。

 ………好きじゃなかったってこと?

 ない。 それは、ない。
 だって、大好きだったもの。

 あたし……ヒドイことしちゃった。

 ぎゅっと自分を抱きしめて、静かに涙を零すことしか出来ない自分が腹立たしい。

 ………せめて。
 耕太に思いを伝えてから、この恋を終わりにしよう。

 そうじゃなきゃ、真司に申し訳ないわ。

 震える唇を噛み締め、あたしは前を見据えた。


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