ラスト プリンス


「……やっぱ、人違い、か……」

「人違い? 何が?」

 良かった、気付かれなかった、と安心するのは早かった。

「お前にそっくりな奴、見かけたから」

 早鐘を打つあたしの心臓は、昔飼っていた真っ白なうさぎを思い出す。

「そうなの?」

 平然を装うのがこんなに大変なことだったとは思わなかった、と心の中で呟く。

 だって、あたし、あの立食パーティーにいたんだもの。

「着物で、黒髪だったからな。 十中八九違うとは思ってた」

「ふーん。 あたしも黒染しちゃおっかなあ」

 なんて茶目っ気たっぷりの言葉を残して、カイさんのデスクにマグカップを置いた。

 それから数時間ほどであたしの仕事は終わり、暇を持て余していた頃、やっとのことでカイさんも終わったみたい。

 いつものジュースをカイさんに渡せば、達成感で満ち溢れた顔つきをしていた。

「やっと終わったのか」

「そこは“予定より早く”とか言ってくれても良いんじゃない?」

「仕事を溜めてる時点で“予定より早く”って言えるか、バーカ」

 抑揚のない声と冷たい視線を投げ遣る耕太は、少しほっとしたような、表情にゆとりが出来ている。


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