ラスト プリンス
「“コーヒー”くらい言ってよ」
耕太の手からマグカップをもぎ取り、下から柔らかく睨み上げた。
コーヒー、と言わない耕太にイタズラをしようと、おもいっきり濃いコーヒーを入れる。
最高に眉が寄った顔が見れると思って、それを渡せば何食わぬ顔で飲んでいて。
「に、苦くないの?!」
つまんないっ、を詰め込んだ声を上げたあたしを『は?』と見下す。
「せっかく苦くしたのに、何、そのリアクション」
「は? なに? 意味分かんねぇ」
何この奇人、みたいな顔であたしを見ないでっ!
「梨海ちゃん、ムダムダ」
「何でですか? カイさんっ」
「耕太の舌はバカなんだよ」
にこーっと悪意が見え隠れする笑顔で、あたしの頭を撫でる。
その笑顔に、そうですね、と頷きそうになってしまう。