ラスト プリンス


「てめえに言われたくねー」

 相手にしない、とでも言いたげに、カイさんを一瞥して、「タバコ」と、社長室を出ていってしまった。

 その背中を見送るあたしは、きっと、主人に置いていかれるペットだろう。

「なーに、梨海ちゃん、好きになっちゃった?」

 あまりにも軽いトーンでそう切り出されたあたしは、キョトンとしてしまった。

 なるべくなら否定したいところだけど、同じように返すにしてもうまく口が回らない。

「えっ……図星?!」

「いやいやいやっ! そうじゃなくて、あまりにも軽いトーンであっけにとられちゃって」

「ま、いいんじゃない? 僕は梨海ちゃん派だからねぇ」

 ははっと笑うカイさんは、再びあたしの頭を撫でる。

 カイさんにとってあたしは何らかのペットなんでしょうか、と、問いたくなるほどのソフトな撫で方。

「耕太、あたしに気を遣ってるんですよね……。 タバコ、外に吸いに行ってるし」

「別にいいんじゃない? そのくらい、気を遣わせたって罰は当たんないよぉ」

 手をひらひらさせるカイさんは、不意に真剣な表情に変わった。


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