ラスト プリンス
「知らないことが多いのは、普通のことだと思いません? ただ、カイさんと耕太の下で働いてるアルバイト。 なのに、耕太について知らないことはない、なんて言えたら、刑務所行きですって」
努めて明るい調子で言い切ったあたしは、カイさんに微笑む。
確かにそうだね、と、カイさんも微笑み返してくれた時、社長室のドアが開いた。
『にひひひひ』
と、まるで魔法使いのような笑みを零す、あたしとカイさんは、じとっと耕太を見つめる。
「キモい。 消えろ」
ぎゅっと眉を寄せる耕太は、少しタバコの臭いを持ってきていた。
ちらり、と隣を見れば、カイさんとちょうど目が合い、コクンとあたし達は頷く。
ささっと。まるで瞬間移動したかのように耕太の腕にまとわりつくあたしとカイさんは、背の高い耕太を“上目遣い”で見上げた。
「げ」
『こぉーたぁー』
「梨海はギリギリ放送禁止。 カイ、てめえはデッドボール」
そんなあたし達に冷たく鋭い視線を落とす。