ラスト プリンス
やっとのことで入れたコーヒーを、ソファーに座る耕太に渡し、再び「ねぇ」と、声をかける。
「なに?」
「…………なんでもない」
言おう、と思っても“好き”の二文字が突っ掛かって出てこない。
一瞬「なんだこいつ」的な感じで見られるけど、それ以降は何も言われない。
「………こっこう――」
「なんだよ」
「耕太」「なに?」「なんでもない」のセットを何回繰り返したかなんて覚えてるわけなくて。
なんとかして耕太に気持ちを伝えたいのに、なかなか上手く言葉が見つからない。
「………なんでも――」
「ない、って言ったら今度こそ犯す」
さっきからずっと同じ場所に立っていたあたしを下から睨み上げる眼鏡の奥の瞳は相当怒っている。
「馬鹿なこと言わないで」
「言ってるのはお前だろ」
間髪入れずに聞こえてきた声はいつもより低く、最後なのに……、と自己嫌悪に包まれるには十分だった。
こんなのあたしらしくないことくらい、自分が一番よく分かってる。
だけど、どうしてもその言葉が言えない。
これで最後だって、分かってるから、余計辛くて悲しくて、胸が痛い。