ラスト プリンス


「……だからっ、その……っ?!」

 俯き気味だった顔を上げた途端、痛いくらいに左手首が引っ張られ、悲鳴を上げる暇なく視界が暗転……したと思ったら、天井をバックに耕太の顔。

 はらり、とふんわりとセットしてあった黒髪が耕太の顔に落ちる。

 それだけで、心臓を両手でぎゅっとされた感じが全身に走る。

 黒縁眼鏡の奥にある二重のくせに鋭くて色気のある瞳。すっと通った形の良い鼻に、ちょうどいい厚さの唇。肌だって、あたしよりツルツルな気さえするのに。

 そのどれもが“男”であることを主張してる。

 掴まれている左手首にはもう痛みはないけれど、離してくれそうにない。

「退いてよっ……」

「だったら言えば」

 低い声は、鋭い瞳は、あたしの胸に垂直に刺さって、つんとする。

 それに耐えられなくて、耕太から顔を背ければ、空いていた手で元の場所に戻された。

 驚いて目を見開いているあたしを無視して「言え」と一言。


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