ラスト プリンス


 ふっ、と。
 ほんの一瞬頬を緩めた耕太は、あたしの背中に手を回し、ゆっくりと起き上がった。

「ふーん。 賭けに負けたから、悔しくて泣いてるってことか」

 耕太がくるりと身体を動かしたため、自然と膝の上に座ることになる。

 言われるまで気付かなかった頬に伝う涙を一生懸命手の甲で拭う。

「………違うっ。 そうじゃない……」

 恋がこんなにも苦しいことだなんて思わなかったのよ。

 誰かに自分の気持ちを伝えることがこんなに勇気がいることだなんて知らなかったのよ。

 どれだけ、今までの自分が馬鹿で浅はかだったのか気付いたの。

「いいの……っ。賭けに負けたとか、そんなことっ。 ただ、苦しくて……」

 嗚咽の混ざるあたしの声は聞き取るのがやっと。

 もし、耕太に「何が苦しい」と聞かれても、ちゃんと説明出来る気がしなくて。

 「シワになる」って怒られても良いからと、ぎゅっとスーツの上着の裾を掴む。


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