ラスト プリンス


 耕太のこと、何も、知らない。
 けど、やっぱり、好きなものは好きなんだもん。

 耕太が口を開いたのを感じて、「……い、言わないで」と涙に詰まりながら目を遣った。

「分かってるから、あたしのボロ負けだってことくらい。 今余裕ないから罰ゲームのことは後で聞くね……」

「…………分かった」

 その抑揚のない言葉は、さらにあたしの涙を誘うだけって分かっててやってるの?

 なら、あたしを抱きしめてよ!

 力一杯、最後の恋の証に!

 ………無理だって分かってるけど。

「こ、うた……」

「ん?」

「大好きだった。 ホントに――」

 いいんだ、これで。

 ちゃんと最後に、自分から好きになることもできたし、想いを伝えることも出来た。

 後悔するとしたら、耕太をオトせなかったことだけじゃないかなあ?

 短い間の濃くて色々なたくさんの思い出と。

 あなたが好きなコーヒーの香りを、決して忘れません。

 ううん。 絶対、忘れることなんて出来ないの。

「――ありがとう。 さようなら――」

 たくさんの“ありがとう”を詰め込んで、あたしは耕太の膝の上から、BELLから飛び出した。


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