ラスト プリンス
今回は男を見る目があったわ、だなんて思ってた矢先のこと。
あたしがちょうど男子トイレの前を通った時。
『お前、あの女のどこがいいんだよ』
おどけた声がトイレに反響して廊下まで聞こえてきた。
別に大した内容じゃなさそうだし、よく彼女出来たてみたいな人に投げ掛けられる質問だったから。
チャイムが鳴るまで余裕はあったけど、立ち止まって聞くほどではない、と判断した私が通り過ぎる直前くらいに。
『梨海のことか?』
思わず、はあ?と言いそうになって唇を噛み締めて、振り返った。
だって、大した内容じゃないと思った話に自分の名前が出てきたのよ?
それに、あの声は確かに彼のものだったんだもの。
そりゃあ、女子トイレの入り口の真ん前で止まっちゃうわ。
少しだけ移動して、ちょうど女子トイレと男子トイレの間くらいに立ち、背中を壁に預けた。