ラスト プリンス


 それに、言わなければ賭けに負けることもなかったし、罰ゲームだって。

「……た。 耕太?」

「あ?」

「なにイライラしてるの? そんな仕事なんてないよね?」

「別に」

 マグカップを持ち上げて、口につけたとき、中身がないことに気付いた。

 「り」と危うく声に出るとこで、それをため息に変える。

 誰も入れてくれなくなったコーヒーは、はたして美味いのだろうか。

 いや、味は大して変わらない。 変わるとしたら、濃さくらいだ。

 美味いかどうかは、俺次第、気持ち次第ってことか。

 コーヒーを入れながら、あいつはいつもナイスタイミングだったな、と考える。

 人間観察が好きなのか上手いのか、そこら辺はまあ曖昧だけど。 仕事中、俺が『コーヒー』と言う前に、『コーヒー飲む?』と2杯目を入れてくれることがほとんどだった。

 それを“普通”と感じてたけど、実際、どうなんだ?

 少ない中の仕事を全うする気持ちから、と考えれば済む話かもしれない。

 ……だけど。
 なんか引っ掛かるんだよなぁ。

 いつでも、どこでも、気を張ってるような、変なカンジ。


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