ラスト プリンス


 デスクを覗けば、メルヘンチックなドレスのデザイン。

「誰が着るんだよ、これ」

 思わず出た言葉に、よくぞ聞いてくれました、ばりの笑みを俺に向けるカイ。

「そりゃあ、ねぇ? む・す・め」

 ことさら甘い笑顔のカイの周りには、大小合わせて100個以上のハートが飛びかっている。

「馬鹿だろ。 まだ産まれてねぇし、それに男か女かだってまだ分かねぇのに……」

「“あの時”の感触が女の子だったんだよ!」

「どんな感触だよ。 お前、脳ミソ足んねぇ」

「ほら、よく言わない? “最中”で、一緒にイクと女の子ができるって」

 ………そんなん知るか、ボケ。

 鼻歌を歌いながら、着色し始めたカイはすでに親バカ。

 やっぱピンクかなぁ、と呟くカイに「男だったらどうすんだよ」と呟いた。

「そしたら、女の子が産まれるまで美羽子に頑張ってもらう」

「ハイハイ。 ガンバレー」

 手をヒラヒラさせながら、自分のデスクに戻った俺は、BELLのホームページを更新しようと、マウスを動かした。


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