ラスト プリンス


「なにが」

 俺はカイを一瞥してから、止まっていた手を再び動かし始める。

 カイの言ってる意味が分からない。

 梨海は自分の意志でここをやめたんだろ? なら、良いも悪いもない。

 第一、あいつのことなんてどうでも――

「好きなんでしょう?」

 …………。

「は? 誰が、あんな子猿」

 じゃあさ、とコーヒーを一口飲んだカイは、デスクから身を乗り出した。

「何で、優しくしたの?」

「別に」

 そう言って顔を上げ、カイを見やれば、もうそこには優しさを含んだ笑みはなかった。

 代わりに。 黒い瞳が俺を捕らえる。

「何で本当のこと、言わなかったの?」

「………」

「嫌われるのが怖いから?」

「それは、ない」

「じゃあ、賭け、だから?」

 どれも関係ない気がする。

 特に、優しくした覚えもないのに、あいつは俺のことを優しいと言っていた。

 それに、15とは思えないくらい、中身がしっかりとしてる。

 イラっとするくらいめんどくさいはずなのに。

 ………どうしてなのか。
 知りたくない、とは思わない。


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