ラスト プリンス


「さあな」

 答えが見つからない俺にとって、返事を曖昧にするほかなかった。

「もし、耕太が梨海ちゃんのこと好きなら、オジサン『良いこと』教えてあげようと思ってたんだけど。 全然気にならないもんねぇ?」

 …………こいつ、いつかぶっ飛ばして殺る。

 どっかの悪ガキのような笑みを浮かべるカイは、梨海の味方なのか、俺の味方なのか、分からない。

 ぎっとカイを睨めば、おどけたように肩を竦める。

「仕方ないからさっきの質問に答えてあげる」

「さっきの?」

「梨海ちゃん家――七瀬家は華道家。
 母親は主に、昼下がりがお暇なマダム達相手に生花教室とか開いてて、パーティーとかのでっかい花のヤツあるじゃん。あれを手掛けてる。 で、父親は梨海ちゃんが通う私立英明高校の校長。 ちなみに、理事長は梨海ちゃんのお爺ちゃん」

 華道家………。
 なら、あの言葉遣いや気の張り方も分からなくはないな。

「それで?」

「梨海ちゃんに兄弟はいない。っていうことは、必然的に梨海ちゃんがってことになるよね」

 そこで。 カイは不意に言葉を強くした。

「まあ、好きじゃないんだもんね。 止める必要もないか、梨海ちゃんの結婚」

 ……………。


< 208 / 269 >

この作品をシェア

pagetop