ラスト プリンス
あの、ゆっくりとした時間が流れる幸せなBELLの空間に戻りたい。
ふわふわしたカイさんの笑顔とか、まれに見ることが出来る耕太の子供みたいな笑顔が、見たい。
気持ちよさそうにうたた寝する耕太の頬に触って起こしてみたり、カイさんと耕太の言い合いを聞いたり。
それで、終わりの見えない言い合いを止めるために、あたしはとびきり美味しいコーヒーを入れるの。
耕太に『うまい』って言ってもらえるような。
その後、ポンポンと頭を撫でて――もうそんなことないのにね……。
分かってるけど、どうしても、耕太のことを考えてしまう。
細く長いため息をつきながら、庭に目をやるけれども、気を紛らわすことさえ出来ないなんて。
零れそうになる涙を必死に堪えるあたしは、バカで、惨めで、恥ずかしい。
外は嫌味ったらしく澄んだ青空の広がる冬晴れで。
風がないのなら、冬の温かな陽射しを身体中で感じたいな。そうすれば、少しは元気に――
「梨海さん。散歩、行きませんか?」
不意にかけられた言葉に、一瞬、胸がドキリとした。