ラスト プリンス

「あら。 どこ行くの?」と母。

「若い者同士がいいんですわよ」と彼の母。

 顔を見合せ笑い合うくらい、打ち解けている様子だけをみれば、まるで新しいクラスにはしゃぐ中学生。

 ダメよ、肌なんて見たら。

 “基礎、土台”のファンデーションの下は、サハラ砂漠もビックリな乾燥肌なのよ。

「お母様、少し散歩してきますね」

「体が冷えぬうちに戻ってきなさい」

「はい。分かりました」

 足下気を付けて、とあたしの手を少し強めに握る彼の横顔はまだ少しあどけなさが残っている。

 庭に出て、あたしと彼の会話が互いの両親に届かないところまでやってきた頃。

「勿忘草か……直球すぎ」

 唐突に聞こえてきた言葉は、あたしに対して言ったのかどうかさえ曖昧なほど小さな声だった。

「………え?」

 彼の背中に声を投げれば、振り返りながら鼻で笑う彼。

 「むかーし、むかし」と彼は突然に昔話を始めた。

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