ラスト プリンス
「知ってた?ドイツの伝説」
「………ええ。 その後、乙女は騎士との約束を守り、生涯その青い花を髪に飾り続けたという。 フランスでは友情のシンボル」
「勿忘草の花言葉、『私を忘れないで』ともうひとつあるんだけど、分かる?」
降ってくる声は思いの外優しくて、けれど悲しさや後悔の気持ちがにじみ出ている気がした。
もうひとつの花言葉―――
知ってる。 知ってるけど、どうして? 『私を忘れないで』の方が有名なのに。
いや、別に知っててもおかしい、とか思ってないけど。 今の時代、インターネットで調べればすぐ出てくるし。
なんで知ってるんだろう。
「もうひとつの花言葉は――『誠の愛』」
目を瞑り瞼の裏に耕太を浮かべながら呟いた言葉は震えていたかもしれない。
うそや歪曲のない、本当の愛だったの。 耕太への気持ちは。
忘れないで、とは言わないから、せめてあたしの気持ちだけは分かってほしかったから………。
渡そう、とは思ったけれど、重い女になるなんて、イヤ。
せめて、この花が枯れるまであたしは耕太を思っていよう。そう考えてた。
うそや歪曲のない、本当の愛は枯れてしまえば、きっと。 何も残らず散っていくのだから。