ラスト プリンス

「昨日、別れてきた。 どうしても、言い出せなくてさ」

 錦鯉が泳ぐ池の水面が揺れる。

 遠慮がちな冷たい風が吹き、彼の髪の毛を微かに動かす。

「ひとつ年下で、夏みたいな女でさ。 さっき、あんたが言ったこと、そいつにも言われた。だから、変に反応しちまったんだよなあ……」

「彼女にもらったんでしょ?その勿忘草」

「今日の朝にな。そん時、ドイツの伝説を教えてもらった。『花言葉は自分で調べて。もうワガママなんて言わないから、最後にキスしてよ』なんて言われたらさ……」

 さっきまで、自分は神に見放された不運な女、だなんて思ってたけど。

 十分、あたしよりこいつのほうが辛いじゃない。

 あたしなんかより、ずっと。

「……ごめんなさい。私の所為で……」

「いや。俺もお前も悪くない」

 突如、ぽん、と。俯いていたあたしの頭に軽い衝撃は、彼があたしの頭を撫でたからだった。

「悪いのは、俺とお前の親」

 顔を上げ、彼の顔を見ようとしたが、彼の視線はあたしたちの両親へ向いていて。

 その瞳から怒りしか感じ取れない。

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