ラスト プリンス

 なんだか怖くて彼のスーツの裾を引っ張り、下から見上げた。

 あたしの顔を見た彼は、再びぽんぽんと撫でた後、打って変わっていたずらっ子のように、瞳を輝かせ、白い歯を見せるようにはにかんだ。

「俺たちの自由『奪還』だな」

「良かったわ。あなたが、相手で」

 ふふっと笑みを零すあたしに、「俺もだ」と呟く彼。

「そうそう。 名前、聞いても良い?」

 池で優雅に泳ぐ錦鯉を目で追いながらそう聞けば、「は?」と、なんとも素っ頓狂な声が降ってきた。

「知らないの?」

 全然乗り気じゃなかったんだから、知ってるわけないじゃない、と言い掛けたのを途中で堪えた。

「ええ。仕方ないじゃない」

 彼はわざと大きなため息をついてから、「俺の名前は」と。

「古賀正徳(こがまさのり)。正解の『正』に道徳の『徳』。分かったか?」

「馬鹿にしないでちょうだい」

 にやり、と笑う彼に、あたしもにやりと口角を上げた。

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