ラスト プリンス
「『だって』なんだよ。 言いたいことあるなら言え」
「…………」
「なんでもないって言ったらなぶり殺す」
「なっ……」
なぶり殺すって……、とぶつぶつ呟く梨海は、再び俯いてから、かちりとバックミラー越しに目が合った。
その潤んだ瞳に、不覚にも一瞬ドキリとしてしまった俺は、すぐさま視線を反らす。
「私の所為で」と話し始めた梨海。 ん? 今、『私』って言ったか?
「引き裂いちゃったんだよね……」
深くため息をつく梨海は、どこか悲しみを含めた声音で話し続ける。
「マサノリは私たちの親が悪いって言ってたけど。 私がもっと早く断ってたら……あ、でも、断れなかったんだよね……」
「マサノリって誰だよ。しかも、勝手に納得してんじゃねぇよ」
「あ……ごめんなさい」
俺の質問に答えるでもなく、消えるような声で呟いた言葉は、寂しさを含んでいた……気がする。
「マサノリって誰」
「お見合いした人。……ほら、さっきお店から一緒に出てきた人だよ」
「ふーん。 で?」
ボトルガムをひとつ口の中に放り込んだ俺は、ずり落ちてきた眼鏡を上げた。